『働き方革命』から、“この町への愛着”へ

駒崎弘樹さんの、『働き方革命』(ちくま新書、2009)を読みました。
表題にある通り、「働き方」を見直し、「働く」ということをライフビジョンにまで拡張して考えてみると、どのような効果が得られたか、自身のエピソードとともに綴られています。
駒崎さんの考える「働く」とは、本来もっていた「傍を楽にする」という意味で捉えれば、職場で「働く」以外にも、家庭で「働く」、地域で「働く」など、他者への貢献、地域社会への関与も含めてこそ「働く」である、とされます。
これらを実行するために、職場での「働く」をスマート化し、(可処分所得ならぬ)可処分時間を増やし、その時間をライフビジョン達成のための「働く」に投資する、という理想を描いています。
まず、職場での長時間労働について、長く働いただけ知的生産性が増える、という考えは正しくないとされ、これは自身の経験に即して語られていますが、簡単にまとめると、次のようになります。
朝から寝る直前まで働く、という働き方を止め、9時〜18時の定時を守る働き方に変えた。「仕事のスマート化」を図った結果、夜の空き時間や土日には、家庭のために「働き」、また地域活動のために「働く」というライフスタイルが実現できた。
このように、職場以外での「働く」時間を持てるようになった効果として、家庭では自身のパートナーと話す時間が増え、今までは職場的な「レポート・トーク(=結論から話す)」を会話にも求めていたのに対し、「ラポート・トーク(=プロセスを共有する)」という対話を楽しめるようになった。そして、家事を分担し、お互いに仕事以外でのライフビジョン達成の時間を持つことができた結果、それが地域活動にも表れるというサイクルを生み出せたそうです。

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さて、『働き方革命』にはこんな効果もありました。夕方や土日など、日が明るい時に自由な外出時間を持てた結果、町に対する“気づき”があったそうです。
それは、時間があるからこそ気に留めることのできた、家の近所にある石碑を見つけ、この町の“物語”に関心を持った、というお話しです。以下、引用すると、

「 そんなドラマを知ると、僕はこの町に特別な感情を抱かざるを得なくなる。今までは公園があって、その横にコンビニが、というような位置関係が中心だった町に、時間という軸が組み込まれ、立体的になる 」


この町が歴史的に持つ、だけれど今まで知らなかった物語に気がつくと、今まで退屈だった風景が色づき、物語を帯びて目に映り、前を通り歩くたびに気に留め、それらは“この町への愛着”へと繋がる、ということ。
この町との付き合いが、公園やコンビニなど施設の「位置関係」ではない、「ラポート・トーク(=プロセスを共有する)」のような“対話関係”へと発展したことが重要です。そして、こう続きます。

「 僕は知ったのだった。知らない人や知らないこと、知らない物語、発見と感動と冒険は、遠くに行くことで得られるのではなく、向こうから訪ねてくるのだ。僕たちが心のチューニングを合わせることで、向こうから訪れる。チューニングにかかるほんの少しの時間を確保すれば。働くことを狭く限定せず、僕たちのあるべき人生の姿を形作る作業全体を“働く”と定義すれば 」


身近な地域の中にもたくさんの「発見と感動と冒険」があり、それは「心のチューニング」の合わせ方次第だ、というのは大変共感しました。
ほとんどの働く人々にとって、日常の大半を占めるのは職場で「働く」時間ですが、もっと広く「働く」との付き合い方を考えることは、仕事と生活の双方に、新しい気づきを与えてくれるのかも知れません。
スイッチのオン・オフではなく、ダイヤルのつまみ具合(「チューニング」)で仕事と生活を調整するような「働き方」を実践していきたいと強く思いました。


『働き方革命』と、“この町への愛着”は、深く深く関わっていると考えられそうです。僕にとっては、取り組むべき新たな課題ができました。